2015年05月7日更新
まさかの20勝一番乗りを果たし、勢いに乗るベイスターズ。
前回の予告どおり、グリエル問題について、法的に考えるとどうなるかを真面目に検討してみたいと思います。
まず、球団が、グリエルに対して色々迷惑被ったぞ、損害賠償請求だと考えたとして、
いわゆる
が問題になります。
この点、現実にはおそらく、球団とグリエルの契約書の中では、紛争が発生した場合、どの国で裁判の管轄を認めるのか、という取り決めの条項が入っていると思われますが、今回はあえて、仮に合意が無かったと仮定します。
1 学説
まず、このような国際的な紛争について、日本の裁判所が裁判管轄を有しているかについては、これを直接に定めた日本の法律は有りません。また、一般的な国際法や条約というものもありません。
そこで、これまで学説においては、
という説が主張されてきました。
この説は、国内の法律で日本のどこかの裁判所に裁判管轄が認められる場合には、そこから日本の国に裁判管轄があるということが逆に推知されるという説です。
こう言っても全然分からないと思うので、誤解をおそれず簡単にいうと、日本の民事訴訟法(以下「民訴法」といいます。)の規定を適用してみて、
という理屈です。
2 判例法理
そして、過去の裁判例をみると、
(最判昭和56.10.16民集35.7.1224)という判決が、この
を採用したものと考えられています。
その後、平成9年に出た最高裁判決(最判平成9.11.11民集51.10.4055)が、逆推知説により日本の管轄を認めることが「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する
があると認められる場合」には日本の裁判管轄を否定すべきとしました。
この二つの最高裁判決によって、現在の判例法理は、
「我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国にある場合には、原則として国際裁判管轄も認められる(逆推知説)が、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべき」
という理論になった(つまり、
)と考えます。
3 グリエル問題への適用
いよいよグリエル問題について、上記の規範にあてはめることになります。
まず、民訴法4条1項・2項により、個人を被告とする場合には、その個人の住所地を管轄する裁判所に管轄があります。
ところが、グリエルについては、住所はどう見てもキューバにありますので、この条文では日本に管轄があるとすることができません。
では、グリエルを日本で訴えられないのかというと、
民訴法5条1号には、
については、
を管轄する裁判所に訴えを提起することができるという条文があります。
この点、今回の訴えは、グリエルの行動によって損害を被った、その損害の賠償だ、という訴えなので、まさに
になります。
そして、今回のグリエルとの契約においては、グリエルが日本、特に横浜DeNAベイスターズの本拠地である
がまさに契約で定められたグリエルの「義務」になりますから、
にあり、横浜地方裁判所が管轄を有することになります。
ここで、逆推知説により基本的には日本に管轄があるということになります。
そして、平成9年判決がいうところの「我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する」
を検討することになります。
この点、相手方のグリエルが個人であることから、日本で裁判を行わせるということが「当事者間の公平」に反するのではないかということが問題になりえます。
しかし、グリエルは単なる一般個人ではなく、
であり、キューバの一般市民と比べると多額の収入を得ていますから、
と考えると、日本で裁判をさせることが「当事者間の公平」に反するとまでは言えません。
そして、もともとグリエルは日本でプレイすることが予定されており、球団は日本、横浜にあることを考えると、
「裁判の適正・迅速」という観点からも
よって、今回の結論としては、
「特段の事情」は無く
ということになります。
次回は、日本の裁判所で裁判ができるとして、
どこの国の法律で判断されるの?(いわゆる「準拠法」の問題)
について考えます。